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大阪高等裁判所 昭和42年(ラ)259号 決定 1967年12月04日

抗告人 福田輝栄(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を奈良家庭裁判所葛城支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙に記載のとおりである。

一件記録に徴すると、本件は亡福田信郎が昭和四一年五月二七日抗告人である福田輝栄を相手取り奈良家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を申立て、同庁昭和四一年(家)第二八六号事件として係属したところ、同裁判所は職権でこれを調停に付した上(同庁昭和四一年(家イ)第一八四号)、右調停事件を昭和四二年四月一八日奈良家庭裁判所葛城支部に回付した。そこで同支部は右回付をうけた事件を同庁昭和四二年(家イ)第二八号事件としてその調停手続を開始し、昭和四二年七月二四日午後一時の第一回調停期日において次回期日は追て指定する旨宣したまま、同年九月七日に至つて該調停事件を審判手続に付する決定をしたが(同庁昭和四二年(家)第一八六号)、その後右審判事件についてなんらの審理をすることなく昭和四二年九月一三日突如として前記昭和四二年(家イ)第二八号事件について本件審判をなしたものであることが明らかである。

しかしながら、本件の如き乙類家事審判事件につき裁判所がこれを職権で調停に付した場合にあつては、その調停手続において調停が成立すれば調停事件とともに審判事件も当然終了し(家事審判法一九条二項の類推)、また調停が不成立となつたときはあらためて審判手続を進行すべきこととなるのであつて、調停事件を終了せしめることなく、その手続中においてさらにこれを審判手続に付することは許されないものであるばかりでなく、しかも、原審は右の審判手続に付した事件については何等審理を開始することなく、前記調停事件((家イ)第二八号事件)について本件審判をしているのであるが、乙類審判事件の調停手続において本案についての審判をなし得る規定は全く存在せず、従つて該審判は違法のものとして取消しを免がれない。

なお、一件記録中の各証拠によつて認められる全体的事情を総合勘案するときは、抗告人の所為をもつて民法第八九二条の定める被相続人に対する重大な侮辱に該当するとした原審の認定には、いささか疑問の余地がないではなく、また当審において提出された上申書によると、福田信郎は昭和四二年九月二二日奈良県立医大附属病院において死亡したのであるが、信郎の病状が悪化した同年九月初め頃には、すでに抗告人との感情的しこりも解け、父子としての親愛の情も回復しつつあり、信郎がその後元気を回復しておれば、本件審判を取下げたであろうことが窺知されないわけではない。したがつて、本件については亡信郎の死亡前においてはたして右のごとき事情の変更があつたかどうかについてもさらに審理を尽す必要があるものと思料される。

右の次第で原審判の取消を求める本件抗告は理由があるので、家事審判規則第一九条により、原審判を取り消し、事件を奈良家庭裁判所葛城支部に差し戻すこととして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小石寿夫 裁判官 宮崎福二 裁判官 松田延雄)

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